地球物理的に不安定な地域に存在する日本列島は豊かな自然環境を育む。一方、地震と火山の噴火からは逃れることは出来ない、日本人の宿命である。だからこそ、地震列島日本の危機管理、文明の維持には、私たち日本人の知力がためされているのではないか。逆に、こうした苦境に立たされる民族だからこそ、力強く賢く生きてきた。
日本は、1950年代後半に核エネルギー技術を欧米から導入したが、当初より地震対策に真剣に取り組み、技術開発を重ねている。原子力発電所の耐震設計に当たっては、その保有する機能の重要性の観点から他産業施設の耐震設計と比較して非常に厳しい条件を課してきた。心臓部である原子炉格納容器の鉄筋コンクリートの厚みはおよそ1メートル、さらに、それが設置されている建屋の外壁の厚みも、同程度ある。これが、岩盤の上に直接建設されている。つまり、日本列島の地表にある最も頑丈な建造物が、原子炉が設置されている建屋である。
ガラス張りの首相官邸や超高層の都庁舎などは防衛上脆弱だが、これとは反対に原子力施設は剛構造で強い。いわば、防衛上、日本最強の建造物とも言える。原子炉格納容器のコンクリート壁の強度は、対戦車向けの可搬型ミサイルで攻撃されても、炉心が破壊されないほどである。この強度は、フランスの高速増殖炉スパーフェニックスへの反対派によるテロ攻撃で証明済みである。しかも、ジャンボジェット旅客機が激突しても、原子炉格納容器は破壊されないことが予測されている。
原子力発電所の地震対策として、剛構造による耐震性の他に、地震波を感知して、原子炉の核反応をいち早く自動停止させる機能を開発している。本震となるS波よりも早く到達する弱い振動のP波を感知して、原子炉内の核反応を急停止させるのである。日本の原子炉の自動停止機能は、P波を感知してから、およそ1秒で全制御棒が炉心に挿入されて核反応を停止できるように設計されている。